今回お話をうかがうのは、有限会社トコシエの榎戸重記(えのきど・しげのり)さんです。黎明期からITにかかわる榎戸さんに、システム開発業界での歩みをうかがいました。
軽く言われたことが刺さって、独立へ
―大学からコンピューターを専門にしていたそうですね。なぜその道を選んだのですか?
高校生のとき、親友が京都産業大学に見学に行って、パンフレットを見せてくれたんです。そこに当時まだ新しかった計算機科学科のことが書いてあって、受験してみようと思いました。1977年入学です。
大学でのコンピューター、プログラムの勉強はすごく楽しくて面白くて、これを本業にしようと志望し、富士通株式会社(以下、富士通)にSEとして入社できました。
―富士通では、どんな実績を積まれましたか?
当初は企業システムの開発担当でしたが、トラブルが起きているプロジェクトに応援に行った際、社内のエンジニアにもレベルの差があることに気がつきました。そこで、業務システム開発ツール「QuiQpro(クイックプロ)」を作り、受託開発のときはそれを使うようにルール化して、標準化・効率化を果たしたんです。
そんなことがあって、後半の15年間は、社内のSEに開発のやり方を説明する仕事をするようになりました。
QuiQproは富士通全社の標準となり、INTARFRM(インターファーム)という名前に変わって、今も使われています。
―独立のきっかけは何でしたか?
大学4年生だった1980年に最初期のパーソナルコンピューターを買ってもらい、父が実施していた貸金業の業務を「IT化」しました。そしてそのシステムを私ひとりでずっと拡張して、40年間、「融資管理システム」としてインターネットで販売していたんです。
その経験を通じて感じたのは、私は小さな業務システムを作って、いろんな方に使ってもらうことをやりたいのだ、ということ。いろんな会社でそのまま使える、会社ごとのニーズの違いにパラメーター変更で対応できる、それが私にとっての「いいシステム」なんです。30年間富士通で働いた後も変わらず理想を持ち「夢を実現したい」と思っていました。
その頃、倫理法人会の講師の先生と飲みに行ったとき、「個人ビジネスの売上が増えたら会社を辞めます」と言ったら、「それは無理だよね」と、軽~く言われてね。軽く言われた、その言われ方が刺さっちゃってね。「その通りだよなあ、やるなら頑張らなきゃダメだよな」と。
そこで、下の子である娘が大学4年生に上がる2011年に「お父さん業はあと1年で卒業していいよね」と宣言して富士通を辞め、自分のやりたい事業に専念することにしました。
その事業の最初にSaaS(1つのクラウドに複数のクライアントをテナントのように置いて動かすシステム)のサービスを展開したいと思って開発したのが、現在の主力商品である「コラボプラザ」です。
SaaSに落とし込む開発が、楽しくてしょうがない
―現在はどのようなサービスを展開していますか?
SaaSシステム「コラボプラザ」は箱のようなもので、その中にはいくつかの機能があります。まずは、ホームページを作り動かす「コラボプラザ ホームページα」。有限会社トコシエのウェブサイトもこのシステムを使っています。他に、月極駐車場の管理システム、ウェブ試験システムなどもあります。
もう1つ、オーダーメイドで業務効率改善のIT化を担う事業も行っています。直接の依頼のほかにも、東京都中小企業振興公社・千葉県産業振興センターのIT専門家として、中小企業に派遣されて企業支援を行います。
事業の中で今、力を入れているのは、新たにコラボプラザに追加したWeb注文システムです。お弁当屋さん、キッチンカー、コンビニエンスストア、物販を行うエステ・美容事業者などを想定しています。
小規模な店舗では、注文の電話に対応できない、需要の予測が立てにくい、サラリーマンが始業前に予約したくても開いていないといった課題がありました。
このWeb注文システムでは、店舗の公式LINE上で24時間、予約注文を受け付けることができます。オンライン決済機能が付いているパターンと付いていないパターンがあり、店舗の状況に合わせて選べます。

―何がきっかけで、注文システムを作ろうと思ったのですか?
コンビニエンスストアの運営者から「店内調理品が人気だが、売れ残りがあると自費での買取りになってしまうので、ロスをなくしたい」と聞いたのがきっかけで、提案しました。
ホームページ作成システムも、交流会のホームページを頼まれたのが最初です。私の仕事の仕方はね、目の前の需要に応じてシステムを作るとなったら、もちろんそのお客さんの仕様を聞きながら作るのだけれど、実は裏で、コラボプラザの箱に入るように、他の会社にも使えるようにという視点を持って仕込んでいくんです。
ここがね、とても面白い。
―えっ、面白いんですか?
システムは、お客さんの言う通りに作っても、思うようには動かないんです。そこで、お客さんから要望を引き出した上でこちらからシステム全体の仕様を提案する、それがSEの腕の見せ所。いろいろな要望を整理してつなげていくのは面白いですよ。
それから、「お客さんはこう言っているけれど、この業務は変わり得るな」と思ったら、変わっても良いようなコーディングをしておく。本稼働後、お客さんから「榎戸さん、ごめん。業務が変わったよ。システム変更して」と、予測が当たると楽しくてしょうがない。
そういう考え方の延長で、1つのシステムを他社でも使えるよう、パラメーターを変更できるよう、コラボプラザに落とし込んで、「いいシステム」を作っていく。そういう面白さですね。
システム構築のことを語り出すとキリがないとのこと。もう少し聞きたいところですが、インタビュー時間の制限もあることなので、気になる方はぜひ直接聞いてみてください。
変わらないのは、ずっとやれてきているということ
―ご趣味のこともうかがいたいと思います。
週1~2回くらいバドミントンをしています。これも楽しくてしょうがないですよ。実は今日もやってきたところです。もう30年ほど続いています。
子どもが幼稚園に上がる頃に引越しをして、近所の人と顔見知りになりたいと思っていました。幼稚園の親御さんたちがサークルを作ったと聞き、昔テニスをやっていたし、「バドミントンというのは、要は羽根つきでしょう」と思って入ったら、奥が深くてハマっちゃって。
今、「おばさまバドミントンサークル」にも参加していて、ラリーが続くように相手をよく観察して打つのが、修業的でもあるけれど楽しいです。おかげでサークルに私が行くと拍手して迎えてくれる人たちもいます。そんな世界はなかなかないですよね。
―システム開発でも趣味でも、長く続けていることが多いですね。
嬉しい言葉ですね。妻や娘からも、「お父さんは、継続はすごいわね」と言われます。他は何も褒めてくれませんが(笑)
先日交流会で「10年前の私」というテーマがあって、私は独立して15年になりますが、10年前と今と、何も変わりませんと言いました。何も変わりません、だけれどそれは逆に言うと、ずっとやれてきているということなので、こんな幸せなことはありません。
―今後、どんなふうに進んでいきたいですか?
今、AI活用を研究しています。その1つが、やりたいことを引き出し1枚のボードにまとめる、ビジョンボード作成をアシストするAIの検討です。
その過程で自分についてやってみたら、AIから「乗り物に例えたら、あなたは何になりたいですか?」と聞かれてね。私は「リムジンバスがいいな」って答えた。電車は線路しか走れないけれど、バスだったらどこでも行けるし、大型なら見晴らしが良くて、みんなゆったり座れるし。そんなことを考えたんです。
そうしたらビジョンボードは、こんな感じになりました。バスというよりも船みたいだけれど、面白いイメージをAIが作ってくれました。

リムジンバスと答えたことには自分でもびっくりしているけれど、豪華なリムジンバスを想像しながら、仕事を頑張ろうと思いますね。
語り手 有限会社トコシエ 代表取締役 榎戸重記(えのきど・しげのり)さん

愛知県出身。妻、長男、長女との4人家族。富士通(株)にてシステムエンジニアを30年経験し、有限会社トコシエを設立。HP構築や業務ソフト開発など、個人・中小企業向けのIT導入支援サービスを提供している。趣味はバトミントンと釣り。人生の目標は「仕事と趣味を生涯現役で楽しむこと」。東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業」等、東京都と千葉県の複数の公的事業のIT専門家として登録されている。
事業HP https://collaboplaza.com/?domain=tocosie
コラボプラザweb注文システム https://collaboplaza.com/?domain=web-order
聞き手 今井恵理(いまいさん)

(行政書士)小蛇事務所代表・本サイトの運営者。事業者支援を専門とする行政書士、インタビュー記事中心のライター、個人向けライフコーチングを行っている。
