※本ウェブサイトとの運営者としては服装等について男女で二分する意図はありませんが、話し手が男性・女性と表現した部分については、その言葉選びについても伝える意図でそのまま採用しています。
今回のインタビューは、埼玉県所沢市の自宅兼サロンで経営者向けオーダースーツを販売している、鈴木雅海さんです。
筆者自身もオーダーすることにし、採寸のため出張していただいた筆者の事務所でお話をうかがいました。
外見は自信を生み、行動を変える
―独立前は保険会社勤務とうかがいました。オーダースーツ事業に至るまでのご経歴を教えてください。
私は30歳のときに子宮がんになり、子宮全摘出手術を受けて、離婚もしました。後遺症で靴が履けないくらいに脚がむくんできたのは、手術後かなり経ってからのことです。
むくみ(浮腫)を取る手術をしたものの、完治する術はなく、症状とうまく付き合って生活していくしかないと。そのむくみに良くないのが、同じ姿勢で長時間座っていることなんです。
50歳を過ぎて今後のことを考え始めたとき、むくみの影響もあって、事務職として勤めていた日本生命保険相互株式会社を2019年9月で辞めることを決めました。コロナ禍では思うような成果を出せない状態も経験しましたが、身体のことを考えると、良いタイミングで辞めたのかなと思っています。
インテリアコーディネーターの仕事をした経験があったのを活かして、最初はカラー診断やお洋服のコーディネートなど「見せ方」をアドバイスするイメージコンサルタントの仕事から始めました。そこからオーダースーツの事業に展開した理由は2つあります。
1つは、30代から毎日スーツを着ていて「女性のビジネススーツは、既製品の選択肢が少ない」と感じていたからです。もう1つは、主人がスーツを買い替えたことで自信がつき、昇進したのを見て、男性の外見も大事だと感じたことです。
「勝負服」としてのオーダースーツを提供しながらも、経営者に「外見や第一印象を整える大事さ」を伝えたい思いがあります。

―ご主人の変化について、もう少し聞かせてください。
私は関西で育ち、主人が大阪支社勤務のときに出会いました。当時の主人は裏地も破れたようなよれよれのスーツを着ていて、自信もなさそうで、とても仕事のできる人には見えませんでした。
出会いの1週間後に狭山工場へ異動が決まった主人は、急だったためしばらくホテル住まいで、業務内容も大きく変わり、残業も多くて、苦労したと思います。不安もあったのでしょう、夜に私とメールや電話をするようになって、仲が深まり、遠距離恋愛の末に結婚に至りました。
主人は結婚するころ血圧が高かったのですが、そんな状況で、病院に通う時間もないほど忙しかったのです。そこで食事に気を付けるように促したところ、1年で12kgも痩せ、スーツもオーバーサイズになりました。
そこで体型に合った、最新の流行りのデザインのものを買ってみたら、自分でも「イケてるやん」と思い始めたようで(笑)、服に興味を持ち始め、自信のある様子に変わって、ついには本社に異動して部長になったんです。
やはり外見が整うことで自信ができたのが、仕事の成果につながったのではないかなと思います。
たくさん着て、活躍してほしい
―オーダースーツを通して、どんなことを実現したいですか?
オーダースーツを作り・着ていて気分が高揚すること、自信がつくことにつながったらいいなと思って活動しています。お客様がオーダースーツを着て仕事で成功し、活躍できれば嬉しいです。
だからこそ、質のいい、長く着られるものを提案し、お客様と一緒に考えていきたいです。スーツをオーダーした経験があっても、お店の受け売りで作っていて、何が自分に合うか分かっていない方が多いんです。
私はやはり、買ってもらえばそれで良いわけではなく、お客様が納得できるものを買ってほしいし、リピートもしてほしい。「一張羅」ではあるのですが、仕事の場でガシガシ着て活躍してほしい。
「服を買う」のではなく、「自分をどう見せるかの投資」と思って買ってもらい、その人の輝ける未来に少しでも貢献して、お値段以上の価値を感じてもらえたらと考えています。
―特にどんな人の未来に貢献できたら嬉しいですか?
現状維持ではなく向上させたい人、いつまでも輝いていたいと考えている人を応援したいです。
私自身も、元気なうちは仕事をして社会に貢献したい。同じように頑張っている女性を応援したい――というよりも、一緒に横でつながって、コラボレーションができるような仲間を増やしたいですね。
―コロナ後、スーツの需要は減少していると思いますが、どのように捉えていますか?
保守的な会社でも、コロナ後には服装規定が緩められたと聞いています。時代の流れとともに、スーツが仕事着として求められない「よそゆき」になってきているのは、仕方ないですよね。
一方で、これまでルールに則ったスーツを作れるのが良いとされていたのが、今では全体のコーディネートが重要になるなど、ビジネスの場面で求められる洋服のあり方が変わってきているのを感じます。
私たちの世代って、いちばん社会の流れを見てきた年代だと思うんです。私がOLになりたての頃って、ワープロ、ダイヤル式電話ですよ。それが今では1人1台のスマホやパソコンで、AIに答えを聞く。要求されるものは時代ごとに変わり、過去の成功体験が通用しません。
だからこそ、時代を敏感に感じて変化できる、柔軟な頭を常に持っておきたいなあと思っています。オーダースーツを今の時代に売る上でも、「お客様が買ってくださる理由は何か?」「私がプラスアルファで提供できるものは何か?」を常に考えているんです。

「所沢なら、鈴木さん」になりたい
―オーダースーツのお仕事以外では、どんな活動をしていますか?
専門学校で、日本で働きたい外国人の方に簿記の基礎を教えています。
33歳で離婚したとき「もう次の結婚はない」と思って、一人で生きていくため、神戸大学の夜間の法学部に行き、さらに並行して公認会計士試験の勉強もしていました。本名の漢字を変えた「雅海(まさみ)」のビジネスネームも、その頃に強い名前として考えてもらったものです。資格は断念したのですが、そのときの学びを今、活かしています。
事業者としてやっていくのなら、数字を追うのは大事だと思います。その素地があるところが、私の経営者としての強みでもあるかもしれませんね。
―ご主人との生活をどのように過ごしていますか?
土曜日と日曜日の夕方は、一緒にテレビドラマを見ます。学生時代は歴史が好きではありませんでしたが、主人と一緒に大河ドラマを見るうちに、1行で書かれる歴史の裏側があることに気がついて好きになり、歴史小説もよく読むようになりました。
歴史以外の小説も読みます、松本清張や山崎豊子が好きです。ドラマでは「白い巨塔」と「刑事コロンボ」を何度も見ています。
病気の事情を知った上で結婚を決めてくれて、同志のように支え合って生きてきた主人は、来年、定年退職を迎えます。主人は中小企業診断士の試験に挑戦しているので、資格を取って、退職後もキャリアを活かせるような、彼自身が納得できる仕事ができたらいいと思います。
―今後、どんなことをしたいですか?
オーダースーツ、経営者の外見ブランディングに加えて、女性起業家で所沢を含む埼玉県内に住んでいる人・県内で仕事をしている人のコミュニティを立ち上げようと思っています。今後コラボできる身近な人とのつながりを作りたいです。
それから、企業向けに、見せ方・装いやビジネスマナーを教える社内研修プログラムも作りたいと思います。
所沢での活動を通じて、「所沢なら、鈴木さんのスーツだよね」と言われるのが目標ですね。
それと相反するところではあるのですが、都内に自分のサロンを持てたらとも思っています。インテリアが大好きなので、自分の好きな家具や照明に囲まれた環境で仕事ができるようになることが、今の目標ですね。
語り手 M style creation 鈴木雅海(すずき・まさみ)さん

インテリアコーディネーターの経験を活かし、2019年にM style creationを設立、イメージコンサルタントとして活動。その後、men’s & ladies’の経営者向けオーダースーツ販売を開始し、スーツスタイリストとして事業を展開している。
聞き手 今井恵理(いまいさん)

(行政書士)小蛇事務所代表・本サイトの運営者。普通のレディーススーツの形が絶対に許せないノンバイナリー。鈴木さんにも全力でわがままを申し上げました。
