新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(以下、新事業&もの補助)の公募が開始されました。
この新補助金は、元の事業再構築補助金→新事業進出補助金に変更になったものと、従来のものづくり補助金とが合体して、1つの補助金制度になったものです。
第1回の申請は8月31日~9月30日18時までです。
申請枠の区分と特徴
新事業&もの補助の申請枠は3つです。
①革新的新製品・サービス枠
新製品・新サービスを開発する事業者向けの枠です。
従来のもの補助の上限や補助率を踏襲し、従業員が1~5人の場合で750万円上限、小規模事業者であれば補助率3分の2になります。
補助下限額も100万円と、大型補助金では手ごろな範囲のものが残された様子です。
つまり、最低申請額(MIN)は以下のようになります。
小規模事業者・再生事業者(補助率3分の2)の場合:
税込165万円(税抜150万円)の投資をし、うち100万円を補助
上記以外(補助率2分の1)の場合:
税込220万円(税抜200万円)の投資をし、うち100万円を補助
反対に、最大額(MAX)は以下のようになります。
従業員が5人以下で小規模事業者に該当する場合のMAX額:
税込12,37.5万円(税抜1,125万円)を投資し、そのうちの750万円を補助
特例を使わない場合の最大額は従業員が51人以上の中小企業の場合です。
MAX:税込5,500万円(税抜5,000万円)を投資し、そのうちの2,500万円を補助
留意点として、他の枠の補助事業実施期間が14か月(採択発表から16か月)であるのに対し、この革新的新製品・サービス枠は10か月(採択発表から12か月)とやや短くなっていることが挙げられます。
②新事業進出枠
再構築補助金→新事業進出補助金の流れを明確に継いだ枠です。
応募する事業者がこれまでに提供したことがない製品・サービスを開始し、その結果としてこれまでと異なる市場に進出すること(新規性)が求められています。
再構築からの流れを汲んで建物費が認められるため補助上限額は大きめですが、補助率は特例を使わない限り規模にかかわらず2分の1と、やや「シワい」部分が目立つ枠でもあります。
従業員が1~20人の場合のMAX:税込5,500万円を投資し、そのうち2,500万円を補助
従業員が101人以上の場合のMAX:税込1億5,840万円を投資し、そのうち7,000万円を補助
補助下限額もかなり高い750万円(税込投資額1,650万円)に設定されており、少額での申請ができない点にも気をつけましょう。
資力に余裕があり、大きなチャレンジができるのであれば、おすすめです。
➂グローバル枠
明確にものづくり補助金のDNAを受け継いだ枠です。新たに海外市場開拓を行う場合に利用できます。
すでに海外に進出済みの場合も、これまでと異なる国・地域への進出であれば申請可能です。
グローバル枠のみ、海外旅費や通訳・翻訳費が補助対象に含まれます。
補助上限額は②の枠と同じですが、補助率が一律で3分の2のため、MAX投資額は変わります。
従業員が1~20人で特例を使わない場合のMAX:税込4,125万円(税抜3,750万円)を投資し、うち2,500万円を補助
従業員が101人以上で特例を使わない場合のMAX:税込1億1,550万円(税抜1億500万円)を投資し、うち7,000万円を補助
補助下限額も②と同じ750万円(補助率が違うため、最低投資額は税込1,237.5万円)です。
申請可能な事業者の変化
中小事業者向けの補助金であり、みなし大企業(大企業に実質的に保有されている等の会社)が申請できない点は変わりません。
また、少し古い時点で申請したことがある方にとっては新しいかもしれませんが、ものづくり補助金・新事業進出補助金ともに、統合前の時点ですでに「従業員ゼロ」の事業者の申請を認めていませんでした。
今回の統合後の補助金も、残念ながら従業員がゼロの事業者(1人事業者)は申請できません。
さらに、統合後の新事業&もの補助では、「申請前に次世代育成支援対策推進法の一般事業主行動計画を策定・公表していること」が盛り込まれました。
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画は、従業員が100人超である場合には、補助金に申請しなくても策定義務があります。また、両立支援助成金など厚生労働省が行う助成金を申請する際には、策定が条件になっています。
しかしながら、中小企業に分類される一般事業者の場合、製造業など一部業種を除けばほぼ義務の対象ではなく、未策定が多いのではないかと思われます。
それが今回の補助金では「応募申請までに」この一般事業主行動計画を策定し、「両立支援のひろば」で公表するところまでしなければいけないことになりました。
計画の策定・公表はそれほど複雑ではありません(他社の計画は「両立支援のひろば」で検索できます)が、それ自体が「お役所関連の手続き」である以上、スムーズに進まなかったり、場合によっては社会保険労務士に依頼することになったりもするかもしれませんので、「すぐにできるから」と放置するのは危険です。
申請を少しでも検討しているのであれば、この一般事業主行動計画について、今からアクションを起こし始めましょう。たとえ申請しないことになったとしても、公表しておけば、助成金など別のところで役に立つことはあり得ます。
また、「「子育て等に関する職場環境整備」に向けた取り組み」として、従業員への社内制度の周知活動も、補助金申請上で必須になっています。
非営利団体の取扱い
新事業&もの補助は、営利事業向けの補助金です。
NPO法人は、税法上の収益事業(NPO法上のその他事業ではない)を行っていれば申請可能です。
ただし、補助金の獲得については原則として収益事業による競争になると考えられ、狭き門になるでしょう。
法人格を持たない任意団体、財団法人・社団法人は、営利事業の有無を問わず申請できません。
買替えや効率化は対象外に
ものづくり補助金ではある時期まで、設備を単に刷新する目的での利用が可能でした。
また直近まで、効率化・生産性向上といった目的での利用が可能でした。
しかし、今回の新事業&もの補助への改定により、「製品・サービス・販路など表向きの部分で新しい活動をする」ことが大前提になり、設備の刷新や内部の効率化目的の活動は対象外になりました。
今後、DXによる生産性向上や設備の刷新については、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)・小規模事業者持続化補助金あたりを検討することになりそうです。
最低賃金+30円要件に注意
従来の補助金から、付加価値要件と賃上げに関する要件が引き継がれました。
付加価値要件は事業計画をしっかり作り込めばクリアできると考えられますが、問題は賃上げの要件です。特例の大規模賃金引き上げを使わない場合でも「賃上げ要件」と「最低賃金要件」は必須である点は、見逃せません。
賃上げ要件:補助事業終了後3~5年の期間に、従業員1人あたり給与支給総額の年平均成長率が3.5%以上
最低賃金要件:補助事業終了後3~5年の期間に、補助事業を実施した事業場内の最低賃金が、地域の最低賃金+30円以上
最低賃金の要件が「今から見て+30円」ではなく、毎年の「地域別の最低賃金に対して+30円」であることに注意が必要です。つまり、最低賃金の毎年の改定額に応じて、上がり幅が30円を超えてくる可能性は十分にあります。
期間中に従業員が退職してゼロになってしまった場合は、補助金そのものの対象外になります。
既存の人の昇給だけでなく、「事業場内の最低賃金」である以上、新たに雇用した従業員についても、当初から+30円水準を適用しなければいけなくなります。
+30円と見て「ギリギリいけるか…?」と考えた事業者さんは、おそらくこの補助金には申請しないほうが無難です。前後幅を考えても対応できる、余力のある事業者向けの補助金になっていると言えるでしょう。
費目についての変更点
対象となる費目そのものはあまり大きく変わっていません。一般的に補助金で認められないものも、変わりありません。詳しくは公募要領(PDF)で確認してください。
ただし、再構築→新事業補助金からの流れで、すべての枠で広告宣伝費が対象になりました。
ものづくり補助金では「大きな事業を行うのに広告宣伝費が含まれない」ことがデメリットだったので、ありがたい変更です。
機械装置・システム・建物のいずれかが必須
もう1つ留意点として、すべての枠で、機械装置費・システム構築費(及び、含まれる枠については建物費)のいずれかの費目が必須になっていることが挙げられます。
機械・システムの費用は、「1件当たり税抜単価10万円以上」のもののみが対象です。一方で税抜単価100万円以上のシステムを申請する際は「要件定義書または開発費用算出資料」が必須のため、それぞれの費目の単価をしっかり確認して、対象になるかどうか、提出書類は別途必要かどうか、判断しなければなりません。
便利になった?不便になった?総評
再構築補助金時代から知っている人からすれば、やはり補助金全般の傾向として「改定されるたびに厳しくなっていく」「小さな事業者が申請しにくくなっていく」というのはあるでしょう。その意味で、間違いなく「不便」にはなっていると思います。
一方で、統合によって広告宣伝費が使えるようになった点や、もの補助で必須だった単価50万円以上の費用が不要になった点は、少しずつ利便性が高くなっている部分です。コロナ禍の「補助金乱立状態」が整理され、補助金を出す目的が明確になってきた側面は感じられます。
補助金はあくまでも「投資した費用の一部が戻ってくる制度」です。
しかし、コロナ禍に給付金など「タダでお金がもらえる」政策が並走したこともあって、
①補助金制度を勘違いしたまま
②事業を実施する体力のない事業者が
➂甘い計画で
採択されてしまう事例がありました。結果、せっかく採択された事業を完了できなかったり、悪い場合には事業者ごと倒れてしまったりということも、実際にあったようです。
そこから見ると、今回の新事業&もの補助は、補助下限の引上げやさまざまな申請要件を課すことによって、「補助事業を行うだけの組織力や資金力がない事業者を、入口ではじくことにした」ように見えます。
実際問題として、小規模な事業者にとっては、補助金制度が不便になってきてはいます。
しかし、「本当に大丈夫か?」を確認し、使うべきところに税金を使うという意味では、補助金制度全体が鍛えられ、磨かれてきているのでもあるかもしれません。
資金調達は補助金だけではありません。また、補助金自体も、1種類のみではありません。目の前の補助金の申請が難しかったとしても、時には専門家も頼りながら視野を広げ、使える方法を見つけて、地道な経営の道筋を描いてみてください。
困ったときの相談先
補助金の準備にはそれなりに時間がかかります。専門家への依頼は早めに行いましょう。
◎補助金の申請に関する相談や、補助金の申請時に提出する事業計画書に関する相談は、行政書士が主な相談先になります。
事業計画の検討・ブラッシュアップについては、行政書士以外の「認定経営革新等支援機関」にも相談できる旨、公募要領に記載があります。
◎事業者全体の経営計画は、行政書士のほか、中小企業診断士や税理士にも相談できます。
◎一般事業主行動計画の策定・公表は、社会保険労務士にご相談を。
◎補助金申請で計画した事業を行う際、許認可が必要な場合の相談先は行政書士、特許など知財に関する支援が必要な場合は弁理士が相談先になります。
今回の学び
・申請を検討するなら、一般事業主行動計画をまず始めよう
・申請時はMAXだけではなく、最低申請額や単価にも気をつけて
・最低賃金+30円要件は「今から見て+30円」ではなく「地域の最低賃金に対して+30円」
