行政書士は許認可、登記に関することは司法書士と、専門性の違いがあります。
しかし、許認可と登記には、実は密接な関係があるのです。
会社の「目的」
すでに法人化を果たしている事業主の皆さん、ご自身の会社の「目的」と言われて、すぐに何のことか分かりますか?
会社の「目的」は、定款の中に定められています。
目的部分は登記されていて、法務局で「履歴事項全部証明書」を取得すると、その中に定款に書かれている通りの記載が写されているはずです。
履歴事項全部証明書は、会社を特定すれば誰でも見ることができます。
また、許認可申請ではほとんどの場合、履歴事項全部証明書の提出を求められます(定款そのものの提出もあわせて求められることがあります)。
許認可で求められる内容はさまざま
許認可申請では、申請する許認可に関する事業が会社の目的に記載されていないと、許認可をしてもらえないことがあります。
書かれていなければいけないかどうか、具体的にどう書かれていれば良いのかは、許認可次第、担当のお役所次第です。細かい具体的な内容が書いていなければダメということもあれば、それらしいことが書かれていればOKな場合もあります。
「対策」よりも「素直に聞く」
先回りをして定款変更しようとしても、書き方が提出先の思うものと違っていると、さらなる修正が必要になってしまいます。
したがって、「目的」に関しては、「かもしれない」で対策するのはおすすめできません。履歴事項全部証明書や定款の提出を求められたら、その時点で「定款の目的にどのような記載があればOKか」を担当者に聞くのが最適解です。
そのために気を付けておきたいこと
先回りができない――だからこそ、気を付けておきたい点が2つあります。
(1)時間の余裕を持つ
定款の変更をしようとすると、自分でするにせよ、司法書士に依頼するにせよ、ある程度の時間がかかるのは避けられません。行政書士に許認可申請を依頼すれば早くなる、と期待していても、定款変更が入ってくるとその部分を行政書士がどうにかすることはできません。
申請にはできるだけ余裕を持ち、ゆったりした気持ちで臨めるのがベストです。
取引先との兼ね合いなど急ぎになる可能性が見えているときは、許認可の取得自体のほうを先回りして進めることはできます。どの程度までなら進めておけるか、行政書士への相談だけでも早めにしておきましょう。
(2)自社の定款をきちんと保管、把握しておく
許認可などの手続きがないと、定款を見直すことはそうそうありません。
結果、気がついたら他の書類に埋もれて行方不明になっていたり、内容を把握していなかったり……。
と、いうことにならないよう、会社設立時に受領した定款は、重要書類としてしっかり保管しておきましょう。
証明書に記載される事項は定款のほんの一部です。なくした、内容が分からないとなると、変更をするのもひと苦労になってきます。
目的をあらかじめ定める難しさ
じゃあ、ありとあらゆる目的を最初から定款に書いておけば、どんな許認可が必要になっても困らないんじゃないか。そんな風に考えた人もいるかもしれません。
世に存在する許認可の数は千、万の単位になるとも言われています。すべての事業を書き連ねることは困難です。目的はある程度具体的でなければならず、「ありとあらゆる事業をやります」というような記載は認められません。
また、先述のとおり、許認可申請で求められる書き方は一定ではありません。あらかじめ先回りするのは難しく、頑張って列挙しても結局変更になるかもしれません。
ただし、可能性のある許認可に関連して記載をしておくことは考えられます。たとえば建設系の仕事をする可能性が高いのであれば、「塗装業」や「大工業」などを目的に含めておくことはできるかもしれませんね。
なぜ目的が見られるのか
定款上の目的が問題になるのは、法人(会社)だけです。
個人事業の場合、開業届にどんな業種を書いたのかが問われることは、基本的にありません。
なぜでしょうか?
個人事業主は「人」です。法的には「自然人」と言います。人間には職業選択の自由があり、違法でない限りどんな仕事でも自由に、いつでも始められます。
これに対して「法人」は、「本当は人ではないのだが、特定の目的のために、法律上では人であるかのように扱うハコ」です。
法人は、特別な条件を満たしたときに、便宜上「人」とみなされる存在です。
その条件として「目的」があります。目的もなくただハコを作って「人として認めてください」と言っても認められないわけです。
このため、本来の法的な位置づけでは(罰せられることがないとしても)、法人は「目的に規定されていないことはやってはいけない」ことになります。
これが、許認可申請で「目的」を見られる理由です。
目的に記載されていない許可を出してしまったら、お役所が目的外の行動を認めたことになってしまい、法令と矛盾するのです。
ただ、「ではどこまで書いてあればOKなのか?」の明確な基準はないので、その点に関してはお役所ごとに基準が変わってきます。
また、多少の抜け道はあります。「前各号に附帯する一切の業務」というやつです。これがあれば、他の目的を達成するために脇道でやらなきゃいけないことはやってもいいよ、ということです。明記はされていなくても、他の類似の業務に附帯していると考えられるから構わない、との結論になる可能性も、少ない例ですがあり得ます。
ちなみに、現に実施していない内容を目的に含めること自体は、特段違法ではないようです。
ただし、最初にも記載したとおり、目的は誰でも見られます。取引先や金融機関から見たときに、現実とあまりにもかけ離れた内容や多すぎる目的は、マイナスイメージになることもあります。一貫性がない、焦点が定まっていない、その結果として信頼性が低いというような理由です。
これから定款を考えるならどうするか
もしこれから法人化や定款変更を考えていて、将来的に許認可を申請する可能性があるのなら、あらかじめ司法書士にその旨を伝えることをおすすめします。
また、許認可の申請可能性がかなり高い場合、すぐに申請をしなくても、役所の担当者に「参考」として書き方を聞いてみる方法もあります(時間が経つと基準が変わってしまうこともあります。あくまでも参考です)。
お役所に聞いてみる際、すべての事情をイチから話す必要はありません。「一般的なことをうかがいます。〇〇許可の新規申請について聞きたいです。履歴事項証明書に記載される目的について、どのように書かれていれば良いかの基準はありますか?」これだけで十分です。
「一般的なことをうかがいます」の呪文は、覚えておいて損はないでしょう。これは「個別具体的な事例によっては例外的な対応が生まれる可能性があることを理解してはいるが、とりあえず誰にでも言えるような無難な答えを返してほしい」という意味で、お役所周りではよく使われます。
その分、後で文句を言うのはNGですよ。念押しになりますが、あくまでも、参考です。
今回の学び
・許認可申請にあたり、定款変更・登記が必要な場合がある
・「目的」の先回り確定は難しい。素直に聞こう
・時間に余裕を持つこと、定款は重要書類として保管すること
